何故、アラスカに行ったのか。
私自身、はっきりとした目的意識があったわけではないし、アラスカに対して特別の思い入れなどはなかった。
若いときにアラスカを旅した知り合いがいて、彼から話は聞かされていた。でも、「乾燥したアラスカより、モンスーンのあるヒマラヤや歴史そのものを感じるシルクロードのほうがいいな」と内心思っていた。
それが、今となってはいつの間にやらアラスカの大ファンである。これも “ご縁” というものか。変心の経緯は忘れたが、一つ挙げるとすると、写真家・大竹英洋氏の『ノースウッド』があるだろう。
日本での安穏な生活を断ち、北米大陸五大湖地方の北方に広がる森と湖の世界に一人旅立つ。自ら師と仰ぐ著名な写真家に会うために、オンボロ車を駆り、ヒッチハイクをし、まるでド素人のカヤックで湖を渡り、湖と湖の間を繋ぐポーテッジと呼ばれる小径はカヤックを担いで歩く。グリズリーに怯え、嵐に打たれ、ボロボロになりながら、憧れの写真家ジム・ブランデンバーグに出会うまでのその道のりは、むき出しの自然との闘いであり、”おじさんの恋” であり、そして何よりも自由であった。
こんなに自由な自然との交わりがあったんだ。
半年後、私はカヤックを手に入れ、家の近くの相模川で練習を始めていた。
▲果てしなく広がるチョウノスケソウの原野を貫く一筋の道は北極海に至る。あまりの広さに雲が踊る。
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