日本で初めて野生のクマを間近で見たのは、南アルプスの山奥の谷であった。MTBで林道を軽快に飛ばしていた私は、「クマ!」と思った瞬間、MTBを飛び降り、ポケットから小型カメラを取り出し、クマに突進した。クマは慌てて進路を変え、谷へ駆け下って行ったが、その時見たクマの毛色の見事な漆黒、臀部の力感にいたく感動し、以来、私の中でクマは「森の王者」として尊崇の対象になった。
日本だと探してもなかなか見つからないクマに、アラスカでは普通に会えるらしい。それだけでも、アラスカに行く価値が十分と思う。最初の頃、私は行く先々で地元の人に「どの辺にクマは多いですか?」、「危険ではないですか?」ときいたものだ。すると、皆、怪訝そうな表情を浮かべる。いろいろ話を聞くうちに、こちらの人の「クマ観」が分かってきた。彼らは「普通のクロクマであるアメリカン・ブラックベア(日本のツキノワグマの近縁種)とグリズリー(日本のヒグマの近縁種だがだいぶ大きいらしい)を分けて考えていて、ブラックベアは怖くない、グリズリーはブラックベアよりは怖いが、適度な防衛策を講じていれば必要以上に怖がる必要はない」と捉えているようなのだ。
行く先々で私はクマについて尋ねまくり、下手な鉄砲よろしく、「スチュワートにはクマが多いらしい」という貴重な情報をキャッチした。即、スチュワートを目指す。
テラスという町を過ぎ、これという特徴もない道路を走っていたら、早速のご対面である。日本では意識的に探してもなかなかお目にかかれないのに、こちらでは半日もしないで遭遇である。やはり多い、アラスカには、クマが。
クマ遭遇に至る基本的な流れは以下のようである。
①クルマを走らせながら、なんとなく「出そう」な雰囲気になったらややスピードを落とし、道路周辺をきょろきょろ観察する。
②特に道路脇の ”黒い物体” が重要。石やアスファルトのかけら、バーストしたタイヤの破片などであることが多いが、たまにクマの糞が見つかるのだ。
③更にスピードを落とし辺りをきょろきょろ見回すと、「ほら、いた!」となる。「糞発見」と「いた」の比率は5:1くらいか。日本ではクマの糞などそうそう見つかるものではないし、やはりアラスカにはクマが多いと実感。
④クルマを停め、カメラを抱えてそっと外に出る。ドアは閉めない。音が出るし、何かあった時、すぐに退避できるようにするためである。
⑤あとは心行くまで観察、そして撮影である。
※以上はあくまで「アラスカにおけるクマ(アメリカン・ブラックベア)の撮影」に関してのもので、グリズリーや日本のツキノワグマ・ヒグマには当てはまらない。
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